欧州の研究チームが、5万年前の装身具をスペインの洞窟(どうくつ)で見つけたという。小さな穴が開いた貝殻(注1)で、紐を通して首飾りにしたらしい。中には顔料(注2)とおぼしき(注3)オレンジ色の鉱物が付着したものがあり、「化粧」の道具にも使っていたようだ。

 今の人類が欧州に広がったのは約4万年前。ということは、入れ替わるように衰勢となったネアンデルタール人が貝細工(注4)を残したことになる。絶滅の理由は知能の未発達とされてきたが、実はそこそこ知的で、おしゃれだったのではないか。 

 狩猟のための石器と違い、生存に関係のない装飾品には遊び心がのぞく。動物の骨や歯、木の実なども使ったことだろう。森や浜で、あれこれ見つくろう姿が浮かんでくる。

 さらには顔料である。高橋雅夫氏の『化粧ものがたり』によると、古代人にとってオレンジ色は特別な意味を持っていた。それは、恐ろしい闇を追い払ってくれる朝日の輝きであり、暖をとり、獲物の肉を焼くたき火の色だった。喜びと幸せの色だ。

 水面に映る己の姿を見ながら、貝殻で飾り、顔や体を祝いの彩りに染める。彼らが生存競争に敗れたのは、足りない知恵のせいではなく、あふれる優しさが災いした(注5)のかもしれない。驚きの発見に推論を重ねて、あるところからは想像の一人旅。考古学の愉悦(注6)である。

 

(注1)   貝殻:会の外側に硬い部分

(注2)   顔料:物に色をつけるために液体や粉

(注3)   おぼしき:思われる

(注4)   細工:工夫して作った物

(注5)   災いする:悪いことの原因となる

(注6)   愉悦:楽しいこと

 

 

7 ネアンデルタール人が貝細工を残したことになると考えられる理由は何か。

1 ネアンデルタール人は5万年前に絶滅したから。

2 今の人類は4万年前には知能が未発達だったから。

3 ネアンデルタール人は知能が未発達だったから

4 今の人類は5万年前にはいなかったはずだから。

 

8     特別な意味とはどういう意味か。

1 遊びの気持ちを表す意味

2 心の優しさを表す意味

3 光や暖かさを表す意味

4 生活の豊かさを表す意味

 

9     筆者は、ネアンデルタール人の知能についてどう教えているか。

1 今の人より知能が高すぎたために生存競争に敗れ、絶滅してしまったのだろう。        

2 その知能の水準についてわからないことが多く、研究が更に進むことが期待される。

3 今の人よりおしゃれで性格が優しかったのは、知能が低かっただろう。

4 知能が未発達だったと言われているが、思ったより知的だったのではないか。