寒さを防ぐ便利な道具であるにもかかわらず、人類は歴史のほとんどの期間を通じて、ボタンを知らずに過ごした。(中略) 日本人は帯で締めていた。古代ローマ人は確かに衣服の飾りとしてのボタンは使ったが、ボタンに穴をあけるという発想が欠けていた。また古代  (注1)中国では紐に棒を通しはしたものの、一歩進んでボタンとボタン穴を発明することはなかった。① こちらの方がより単純で便利であるのに、だ。

 ところが一三世紀に入ると、突如として  (注2)北ヨーロッパでボタンより正確にはボタンとボタン穴が出現した。この、あまりにも単純かつ精巧な  (注3)組み合わせがどのように発明されたのかは、謎である。科学上の、あるいは技術上の大発展があったから、というわけではない。ボタンは木や動物の角や骨で単純に作ることができるし、布に穴をあければボタン穴のできあがりだ。それでも、このきわめて単純な仕掛け  (注4)を作り出すのに必要とされた発想の一大飛躍  (注5)たるや、② たいへんなものである。ボタンを留めたりはずしたりするときの、指を動かしたりひねったりする動きを言葉で説明してみてほしい。きっと、その複雑さに驚くはずだ。ボタンのもうひとつの謎は、それがいかにして見出されたか、である。だって、ボタンが徐々に発展していった様子など、 とても想像できないではないか。つまり、ボタンは存在したか、しなかったかのどちらかしかないのだ。

 

(注1) 古代:古い時代

(注2) 突如として:突然に

(注3) 精巧な:細かくてよくできている

(注4) 仕掛け:何をするための装置

(注5) 飛躍:急に進歩しる

 

  「こちらの方」 とあるが、何を指しているか。

1 日本人の着物と帯

2 ボタンとボタン穴

3 衣服の飾りボタン

4 紐に棒を通すこと

 

5  「たいへんなものである。」 とあるが、なぜそういえるのか。

1 簡単で単純な技術しかない時代に発明されているから

2 科学や技術の発展によらずに考え出されたものだから

3 形は単純だが、言葉で説明しようとすると複雑だから

4 それまでなかったような動作を考える必要があるから

 

6  「とても想像できないではないか。」 とあるが、どうしてか。

1 現代の私たちにとっては存在して当たり前のものだから

2 使用する際には非常に複雑な動きをともなうものだから

3 少しずつ発展したにしてはあまりにも単純なものだから

4 古い時代のことなので、確実な記録が残っていないから